• Poetic Diary,  TANKA / HAIKU

    kirakira maternity life

    ふたつ枕を並べた甲斐が無いほどに近く頭を、身を寄せ合う。あなたは私の腹に左手を当て、私はその手に私の右手を重ねる。私の手ではない手がやってきたことに気づいて、きみは私の腹を蹴る。内側から、懸命に、一発。そしてもう一発と繰り返す。元気だねえとあなたは笑い、もう1回と私は私の腹をつつく。するとあなたが手を当てていたところが急に固くなり、なだらかな丘に起伏ができる。おしりかな、あたまかなと私たちは笑う。

      短日を食い育つ子を宿したり

    電気を消し、それぞれが眠りにつく。暖かな布団にくるまれて、静かに、眠る。

  • Journal

    りんごジュース

    淡々と業務を終え、自室の隣の寝室で電気を点けないまま横になる。定時で上がればそれなりに夜の時間は長く、横になったままその日を終えるのは難しい。手持ち無沙汰ならいつもどおり散歩にでも出ればいいのだが、窓から見た黒い空と向かいの家の明かりで今日は十分だった。お風呂も夕飯もまだなのは知っている。でも何をすればいいか分からなかった。寝返りを打ち、メールやらSNSやらのコミュニケーションアプリを何度も更新する。人々は仕事中のようで仕方なしにカメラロールを開く。古い日付へ画面を繰っていくと、母と3歳の姪が笑う写真に目が留まった。

    その日は兄夫婦に用事があり、実家に姪を預けていたところにちょうど私が帰省したのだった。3月下旬でまだ暖かくはなかったが、天気が良かったので母と姪と私の3人でデパートの屋上広場に出かけた。コマのように回る椅子や動物を模したスプリングの遊具があり、まだアスレチックで遊べない子どもを連れていくにはちょうどいい。しかし、エレベーターを降りた姪はホールから動こうとしない。何度か遊びに来て慣れた場所のはずだったが、交通事故の現場に居合わせたかのように固く私たちの手を握ったまま広場を見つめている。寒いのだろうかと思い、両手で抱えて遊ぶ大きなソフトブロックが転がる屋内のプレイエリアに手を引くも、俯いたまま遊ぼうとしない。数か月に1度しか会わない私と2人きりならいざ知らず、毎晩テレビ電話をしているばあばにも何も言わないとは相当気乗りしないのだろう。
    仕方なしに姪を挟んでベンチに座り母と2人で話していると、姪がアンパンマンのあしらわれた自動販売機を見つめていることに気づく。色とりどりの小さな紙パックのジュースやお茶が陳列されており、1つ70円という。しかし、兄夫婦は子どもの食事には細心の注意を払っており、チョコや飴は食べさせないようにしているほどだから安易にジュースを買い与えることはできない。パパとママに聞かないとだなあと母と顔を見合わせていると、「さびしいときはママがジュースくれるの」とデパートに来てから初めて口を開く。そうなんだね、じゃあ一緒にジュース飲もうねと母が青いパッケージのリンゴジュースを買った。屋外の日当たりのいいベンチに移動してジュースを飲み終えた姪は元気になり、その後は3人で鬼ごっこをして遊んだのだった。

    そのとき連続して撮った数枚の写真を数度見返して携帯を閉じ、布団をかぶりなおす。小さな手でぎこちなくピースを作る姪の顔を思い浮かべ、明日スーパーに行ってジュースを買おうと決める。