• Memo

    裏紙;セカイの備忘録

    私はなんでもかんでもすぐ忘れてしまうからなんでもかんでもtwitterにpostするし、日記さらにはブログを書く。
    そのことについて、すぐ思い出せていいねと言われたことがある。
    なんとなくしっくりこなかった。思い出したいことを残しているわけではないから。もう誰にもこんな思いしてほしくないと願うほどにつらかったことも書くから。
    息をして、セックスをして、ゲロを吐く。それだけの私を私が忘れても、家族や友達が私を忘れても、どこかの知らない誰かに私を発見し続けてもらいたいと願う。私は死にたくない、永遠に生きていたいから。

  • Journal

    願掛岩頂にて

    次に駐車できるところを見つけたら迷わず入ろうと決心し、左手に津軽海峡を睨みながら青森県佐井村の山道を走る。
    道中、展望用の小さな駐車スペースを何度も通過してきた。それは一重に私の運転の技量のせいだった。展望台に気付いてから、後方を確認しウインカーを点ける一連の動作を頭に浮かべ動作に移そうとするため、大概は機を逃し駐車スペースを通り過ぎてしまう。反省の末導き出した解決策は、予め確固とした気持ちを持ち、突如現れる駐車場に備えることだった。
    長いこと登りの道が続き、いつの間にか後続車両もいなくなった頃、心の準備も甲斐なく駐車場を指し示す案内標識が現れた。速度を落としつつハンドルを左に切り、砂利の上を滑る。
    車を降りて海に面した柵に向かうと、眼下には願掛岩と呼ばれる奇形の岩が入り江をなし、眼前にははるか遠く水平線が見渡せた。絶景だった。

    柵沿いに歩いていたら入り江へ繋がる階段に行き当たった。降りていこうと足を踏み出したとき、強風に煽られ思わずたじろぐ。一歩下がって斜面に丸太を埋め込んで作られた階段には手すりがないことを確認し、入り江までの距離を目測する。目を上げ正面に広がる海を改めて見て、これで十分だろうと納得する。私のあとに来た単身の男性も、車を降りるなり柵へ駆け寄り熱心に写真を撮っていたが階段の先はのぞき込んだきりで、私と同じ結論に達したのだろう、素知らぬ様子で柵沿いに写真を撮り続けていた。
    金属製の柵が生垣に変わった辺りまで行ってももう景色にさほどの違いはなかったが、その先に鳥居があったので最後にとご挨拶をし車へと引き返す。その時、先ほど私たちが諦めた階段を上ってくる子供連れ家族が目に入った。特別アウトドアに熱心なわけでもなさそうなのに、お父さんを先頭に、ためらうことなく階段を下りていったようだった。悔しさがこみあげてきた。
    ここまでの道すがら、私は、漠然とした好奇心のみで自分が何を求めているのか分からないままここまで来て、そして分からないまま帰っていくのだろうと半ば絶望的な気持ちになっていたのだ。数年越しの希望を叶え、前日訪ねた恐山は、それなりに感心することはあったものの期待していたもの――何を期待していたのか定かでない、何某かのインスピレーションが得られるとでも思っていたのかもしれない――は胸に去来せず、また、夫や母親の心配を差し置いて同乗者なく下北半島を走ったが、カーナビに言われるがまま道を行くのみで、空調の効いた車内で厳しい自然の一端を流し見る自分に何がしたかったのかと落胆せざるを得なかった。そして、今後について、今回のような虚無を覚悟の上で、好奇心に身を委ねることを肯定し、これまでどおり実行できるだろうかと不安になっていた。

    さきほど階段を下りなかった私に、もうその端緒が表れていたに違いない。自分を叱咤し階段を下りていく。
    入り江は「男岩」と「女岩」の間に作られている。駐車場は女岩の入り口にあり、階段からは対面の男岩をよく見ることができた。それは風雨の浸食により柱状の岩肌を成し、雄々しく海に座していた。斜面の中腹には人が行違えるほどの幅を持った歩道が設けられており、そこを抜ければ男岩に登ることができる。しかし、男岩の山道がどうなっているのかは見通せない。男岩へ行こうか、それともさらに階段を下り、入り江まで行こうか決めかねながら、休憩がてら一旦階段を外れ、歩道に降り津軽海峡に対面する。そのときビュッと風が吹いた。それに頬を打たれた私は、鞭打たれた馬の如く反射的に階段の反対側、男岩を取り巻くようにめぐらされた手すりに向かって駆け出した。デニムの重いスカートが広がり翻る。マスクを顎にかけ、息を切らしながら手すり伝いにがむしゃらに登っていく。足元は枯葉に覆われ道は見えないが、手すりがある以上さらに進んでいけるのだと分かる。
    5分ほど登ると視界が開けた。船も島もなく、ただ海が広がる。関東は夏へと向かっているのに、そこはまだ冬の気配を残していて、肺に入る空気の冷たさに身が震えた。

    駐車場に戻り、予定外に時間を費やしてしまったことに気づく。カーナビの目的地を大間港から下北駅のレンタカー店に変えたが、山岳部を抜ける最短ルートはまだ冬季通行止めで、結局大間を通っていくしかなく、下北半島を海沿いに再び走り始める。