食べるということ #darkness
食べることが好き。
食べ物の彩り、かおり、手やカトラリーで触れたときの感触、食感、その全ての味わいを楽しむにはほかのことを考える余裕はない。思い切り没入できることがあることはいいことだ。
ときどき、全てが嫌になる。そういう時間は誰にでもある。だからもちろん私にもある。
眠って忘れてしまえばいい。でも、うまく眠れない。
ぼーっとテレビでも見ていればいい。でも、流し見の苦手な私はまともに流れ込んでくる情報の量に耐えられない。
気分転換に運動する気力も、部屋の掃除をする気力も、何も、何もない。チョコレートを溶かしたような粘度のdepressionに絡め取られ、ただただその強い芳香の中に沈んでいく。何もせず、時間が過ぎるに任せようとするのを誰かが責める。一方で、うずくまっている隙を狙って日々のあらゆるタスクが頭を駆け巡る。ひゅんひゅんと音を立て、極彩の残像を残すそれらを退治するために、何かせねばと気が逸る――何も出来ないくせに――もう、耐えられない。
甘いものが好き。
アイス、ケーキ、ドーナツにクッキー、和菓子だって何だって好き。
シュークリームを食べたいと思う。カスタードの舌触りとやさしい甘さが身に浸みる。
チョコクッキーを食べたいと思う。サクサクとした食感に夢中になる。
ドーナツを食べたいと思う。たっぷりとしたボリューム感に安心する。
どら焼きを食べたいと思う。ぎゅっと詰まったあんこを挟むじわっと甘い皮が贅沢だ。
アイスミルクを食べたいと思う。待ちきれない私はパッケージを破り、アイス片手に家へ向かう。
食べることが好き。
食べ物の彩り、かおり、手やカトラリーで触れたときの感触、食感、その全ての味わいを楽しむにはほかのことを考える余裕はない。
お菓子を食べている私は忙しい。忙しすぎて嫌なことはつい全部忘れてしまう。満たされゆく胃だって無重力空間に飛ばしてしまう。