アジール

万が一の言い訳のために、ごくごく軽くノックする。来るはずのない返答は待たず音を立てないようゆっくり扉を押す。

扉に手をかけたまま常夜灯の中目を凝らせば、顎までふとんを被り眠るあなたがいる。私に見られていることも知らず眠り続けるあなたがいる。

掛け布団を持ち上げ、空いているスペースに体を滑り込ませる。隣に来たことに気づいてくれないかとじっと顔を見つめてみるも束の間、早くあなたに触れたくて、先ほどまで起こさないようにと静かに静かに距離を詰めていった甲斐もなく、乱暴にあなたの腕の中に入ろうとする。耳の下に敷かれた左腕を引き抜こうとして漸くあなたは私に気づき、目を開けないまま私の体に腕を回す。私はそのままじりじりと身を寄せ、あなたの腕の中で丸くなる。

ここにいる間、私は頭を悩ませるべき雑事——それどころか日常のあらゆる些事から解放され、何も考えずあなたの温かさに包まれているだけでいいのだ。だからそう、安心して目をつぶり、深く息を吸って眠りに落ちていくに任せる。