
枝豆ソルティドッグ
年々夏が長くなっているものだから今年もそのつもりでいたのにもう心地いい風が吹き始めた。今年は夏バテ気味だったから例年よりたくさんの野菜を食べたものだ。トマト、オクラ、ズッキーニ、ナス、ミョウガ……ベランダでバジルも育て始めた。
本やインターネットを参考にしながら様々に料理をする中で最もインパクトのあったものは「だし醤油漬けクミン枝豆」だ。スパイス専門店を営むインドカリー子さんが日々スパイス料理を考案する中、Twitterにて発信したレシピのひとつだ。作り方は至って簡単で、普通に塩ゆでした枝豆を出汁つゆ・ごま油・クミンパウダーで和えるだけ。鞘ごと咥え口内に向けて豆を発射する。ひとつ、ふたつ、引きが良ければみっつめを発射し、次の鞘を咥える。クミンの香り――所謂カレーのにおい――が食欲を刺激し、ごま油と出汁のしっかりした味付けが後を引く。
枝豆とはこんなに美味しくなるものであったかと感心しつつ次々枝豆を発射していたところで急に、これは豆の美味しさなのだろうかと疑問が湧く。鞘ごと調味料と和えただけで「しばらく置く」工程さえなかったのだから豆に味が移っているとは思えない。ということは鞘が美味しいのだ。つまるところ塩を舐めながら味わうソルティドッグと同じ手法なのだ。喉をとおるものは素朴でいい。自らの唇に毒を塗り、接吻で以て男を殺す悪女さながら、最上の劇物を隠して触れる唇の奥に座す舌を狙っているのだ……なんて、そんな比喩もバーカウンターの薄闇にひかるスノーソルトにはお似合いだろうが、私の家のやたらと明るいLEDの下でちゅーちゅーやられる枝豆には縁遠い話だ。さあ夏も終わる、ウォッカよりビールだ、乾杯。

