跳ねろ、跳ねろ、身を揺すれ
跳ねろ、跳ねろ、身を揺すれ
行列の中のひとりなのか?
いいえ――わたしを見るのだ、誰よりも輝くわたしを見るのだ
青森ねぶた祭り2日目、パイプいすで設営された有料観覧席に座り団扇を仰ぐ人々ひとりひとりの目を捉えながら国道7号線を飛び跳ね進んでいく。
屋台で腹ごしらえをしようと思っていたのに、ハネト衣装の着付けに並ぶ列が予想以上に長く時間がかかってしまったのでゆっくりお祭り気分を楽しむ間もなく、コンビニスイーツでカロリー摂取。
ポカリスエットのペットボトルも買って気合十分、一際賑わっていた青森菱友会に紛れ込む。
夕日も沈み始めた19時ちょうど、ハネト達の後ろで、眠っていた獅子が立ち上がり吼えるかのように、出陣しようとねぶたが持ち上げられた。鬼を従え朝廷に反乱を起こす藤原千方と、彼を討とうとする紀朝雄をかたどったねぶたが薄闇に煌々と浮かぶ。高揚していた気分も待ち時間の間にいくらか落ち着き、その姿に出陣の気合よりも雄雄しさへの畏怖の念が湧く。
しかし見とれている間もなく「ラッセラー!!」と声が上がった。
その音頭に進行方向を振り返ると、「ラッセラッセラッセラー」とまだ薄い声を上げながらハネト達がぱらぱら跳びはじめていた。ワンテンポ遅れて隊に詰め寄り、見よう見まねで右足、左足、交互に跳んでみる。すぐに慣れ、ハネトの隙間を縫って、より賑わう隊の前方へ出て行く。
跳び続け、みな疲れが出てきたのか、盛り上がりがやや落ち着いたころ、休憩がてら隊を抜け、次はどこの団体に紛れ込もうかと歩道を歩いていると、夏の夜の心地いい風が吹き、ここは熱帯夜に魘される東京ではないのだと思い出す。そして早くもハネトの中にいたときの熱気が恋しくなり、今度はあおもり市民ねぶた実行委員に飛び込んだ。遠く前方に一際賑わっている集団があり、そこにはゴンドラに乗って音頭をとる女性の姿があった。それを目指して急いで飛び跳ね、ゴンドラのすぐ後ろに着く。
音頭をとる役が交代する合間に足を止め、周りを見渡す。
となりの女性はからだをくの字に折り曲げ腕を目いっぱい振りながら飛び跳ねている。
斜め前では背の高い男性二人がからだを揺すり、じゃらじゃらと背中にさげた鈴を鳴らす。
後ろからハネトがどんどん押し寄せてくる。
――両足を地に着けている場合じゃない。
声を張り上げ身を揺すり、休むことなく跳ね続ける。空になったペットボトルを突き上げる度、もっと激しく、もっと大きく、そしてこのまますべてを飲み込んでしまいたいという欲望が膨らんでいく。凶暴と言っていいほどに飢えた気持ちに踊らされながら、沿道で悠々と行列を眺める人ひとりひとりの目を捉え、私のこの狂乱に気付けと念じる。
からだの向きを変えると、ひとりの若い男性と目が合った。それまでの距離を保ちながらも、明らかにお互い相手の存在を意識している。節が繰り返される毎に相手の声が大きく聞こえるようになる。このまま身を任せることに、初めての領域に踏み込む際のかすかな恐れを感じ、間合いを取ろうとするも何故か距離は近づいていく。音頭に合わせて声を上げ続けていたはずだが、音は漂うばかりで今度は何も響かない。逃げられないほどに距離がつまり、彼と高い位置で手を合わせる。瞬間、手を握る。そして手を離せば再び祭りの熱がぶり返し、互いに波の中へ戻っていく。
跳ねて跳ねて進み続ける。ささやかに下げた鈴を乱暴に揺すり、私に巻き込まれてしまえばいいと辺りに発散させる念を増幅していく。
さて、祭りはどうやって終わったのだったか。念の代償はふくらはぎの痛みとして今もまだ払い続けている。