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    呪いを解くためのレッスン#2

    自分は何が好きなのかとか、何になりたいのかとか、もう何も分からなくなってしまった。
    もう、何が呪いなのかさえ分からない。私は完全に呪われ、自分が呪われていることさえ分からなくなった。

    日毎に草木が芽吹くのを感じるのが好きだった。
    葉陰が濃くなる一方で、きらきらと差し込む光を浴びれば身体のうちから力が湧き出るようだった。
    手をすかし、スカートを広げ、一歩歩いては振り返り、一瞬一瞬表情を変えるきらめきを見逃さないようにとしていた。
    緑から赤や黄色へそして茶へと葉の色が変わるのを死にゆくときを眺めているようで苦しかった。
    はだかの枝は寂しいが、これからまた新たな生命が生まれるのかとわくわくした。
    私はこの移ろいのために永遠に生きていたかった。

    朝起きてカーテンを開け、雲一つない空を見れば外へ飛び出さずにはいられなかった。
    雨が降れば本を広げ、雨音とともに何かが体に染み入るのを感じた。
    そのようにして外界から刺激を受ける度、抽象的な事物への想念が沸き起こった。
    思いを巡らせ、歓喜や怒り、憎悪、あらゆる感情にたどり着いた。
    理不尽を相手取り、見えない敵と戦った。
    心が平穏なときなどなく、常に動き形を変えるそれを感じることが悦びだった。

    そんな時代もあった。

    朝起きて仕事に行き、帰って夕食の支度をして夫の帰りを待つ。ふたりで笑いながら食事をし、食べ終えたころにはもう寝る時間で、毎日をそのように繰り返す。
    何はなくともそれだけで日々は流れていく。私の向かいに座るその人は満面の笑みを浮かべている。それを見れば私のこころも満たされ、世の中の些事なんてどうでもよくなってしまう。

    私は誰だったかな、かつてはそれを知っていた。