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想いに添えて
眠る前、ローテーブルに置いたバラの花瓶を抱えて洗面所に立つ。花瓶代わりに買った大きなグラスからそっとバラの花束を抜いて、パチン、パチンと茎の先を切る。園芸用の切れ味のいいハサミを買わないといけないなと思いながら、パチン、パチンと繰り返す。滲んだ緑色の断面を落とせば、みずみずしい白い断面が現れ、もう少しの間はきれいに咲いてくれるのだろうと嬉しくなる。
洗面台の隅に花束を置き、グラスを覗いたときの濁った水の微かな臭いに、小学校の教室に花が活けてあったことを思い出す。
花瓶の水の入れ替えは日直の仕事だった。たっぷり水の入った大きな花瓶を水道まで運ぶのには苦労した覚えがある。しかも水を捨てるとき、それはやけに臭った。しかし、その何ともいえない腐臭が好きだった。
翌日、このことを恋人に話した。彼の部屋で、眠る前、抱きしめられながら。水の入れ替えをせずに自宅を出てきたことに少しの不安を感じながら。私が話し終えた後、彼はいの一番に「誰が買ってきていたんだろうね」と言った。
さあ、誰が買ってきていたのだろう。
毎日生徒が水の入れ替えをして大切にしていた花は、誰が買ってきてくれていたのだろう。
ただ、花瓶を洗わず、水が腐敗してしまう程度にはぞんざいに扱われていた花を、誰のために買ってきてくれていたのだろう。
彼の部屋から仕事に向かい、一日を終えて帰宅し電気を点けると、ワンルームの真ん中ではバラがまだ鮮やかに咲いていた。そういえば、と、ひとつひとつの花を見つめながら1,2,3……49,50と数える。108本がよかったのだけれど持ち帰るのが大変だろうから50本にしたと言っていた。
彼が私のために買ってきてくれた花なのだと認めて、改めて、そうか、と思う。
ピンクと赤の花の色は日に日にぎゅっと濃くなっている。