米屋のカレンダー

スーパーで夕飯の材料を買い、家の近くの米屋に寄った。新米ステッカーが貼られた秋田県産あきたこまちの玄米を2kg頼む。宮崎県産コシヒカリにも新米ステッカーは貼ってあった。値段もあきたこまちと同じく480円/kgだった。米屋のおじさんは、バケツのような計量カップで米櫃から玄米を掬いながら「960円ですね」と言う。私は右手の親指でpaypayを立ち上げ、レジ横に掲示されたQRコードを読み取って9, 6, 0、と打ち込み、おじさんを待ちながら陳列棚を眺めていた。「冷めても美味しいブランド米!」というポップの下には1280円と書かれた値札が置かれていた。米袋を提げたおじさんがレジに入ってきたので、携帯の画面を見せて支払いボタンを押した。さっきまで静かにしていた私の携帯が「ペイペイ!」と声を上げる。私たちふたりは何も言わなかった。
無言のままおじさんが新しいビニール袋を出そうとするので「大丈夫です」と断るとお礼を言われた。「カレンダー、渡しましたっけ?」と聞かれ、「いえ」と答える。段ボールから筒状に丸められたカレンダーを引き抜こうとするので「今日は雨だから。また年内に来るでしょうし」と断ると、「なくなっちゃうから」と今度は食い下がった。貼る場所がないからと言えない私は「ありがとうございます」と言って受け取った。自動ドアの『押してください』ボタンを押して「いただきます」と半身でお辞儀をしながら店を出る。
『いただきます』でいいのだろうかといつも悩む。『ごちそうさまです』ではないとも思うけれど。

空いているけれど私のじゃない壁 畳に転がす2022