夜明け前

起きた、眠れないから起きた。携帯から充電ケーブルを引きぬいて時間を確認すると4時だった。まだ夫の寝る部屋の電気を点けるわけにもいかないので、眼鏡を見つけられず何も見えないままホステルの階段を下りる。

夕べ、勧められるがままにワインを飲んだものだから頭はなかなかはっきりしない。共有スペースのひとり掛けソファに腰かけ外を眺める。4時はまだ暗かった、5時もまだ暗かった。ずっと暗いままなのではないかと思うくらい長いこと日の出前の外を眺め、虫の声を聞いていた。

そういえば大学生のときの私は眠れなかった。楽しいことがあれば素晴らしい一日が終わることを憂い、悲しいことがあればその気分にどっぷり浸かって抜け出せず、毎晩鬱々としたときを過ごしていた。埼玉の実家は市街地から外れていたからとても静かで、世界には自分ひとりしかいないのではないかと孤独を深めるにはちょうど良かった。

ホステルの庭を打ち始めた雨の音に、離れて久しい実家の夜を思い出した。あまりにも多感で悩んでばかりの日々だった。しかし苦しみは遠く、この静かな優しい暗闇に包まれている今は、この夜が永遠に続けばいいと思う。